「フランス法」への導き(1)~概説書

馬場 圭太(関西大学法学部教授)

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 A教授は、法学部の講義科目「フランス法」を担当しています。授業を終えて研究室に戻ろうと歩いていたところ、一人の学生から声をかけられました。どうやら勉強のしかたについて質問があるようです。

学生—— 先生、お忙しいところ失礼します。実は、私、大学院受験を考えているんです。フランス法の研究を目指していて、そろそろ本格的に勉強を始めようと思うのですが、どこから手を付けたらよいのか分かりません。アドバイスをいただけますか。

教授—— なるほど。学部生のころから基礎を固めておくことは大切なことですね。でもフランス法を理解するためには、日本法をしっかり勉強しておくことが大事ですよ。

学生—— はい… それで、フランス法の勉強は…

教授—— フランス語で書かれた法律文献を読みこなすのはまだ難しいでしょうから、まず日本語で書かれたものを紹介しましょう。

 比較的入手しやすい文献として、つぎのものがあります。

・滝沢正『フランス法(第4版)』(三省堂、2010年)

 本書は、フランス法の歴史、国家体制、裁判制度の解説を中心に構成されています。これらは、将来どの法領域を研究するにしてもしっかり押さえておかなければならない基本事項です。入門書としては若干堅めですが、最初から最後まで読み通すことができる分量ですし値段も手頃ですので、フランス法の初学者が最初に手に取るにはよいと思います。巻末に「法資料の手引」として、法令の調べ方、判例の調べ方、日仏の重要文献、基本文献などが紹介されていますので、参考になるでしょう。

 つぎに挙げるべき文献は、この2冊でしょう。

・山口俊夫『概説フランス法(上)』(東京大学出版会、1978年)
・同『概説フランス法(下)』(東京大学出版会、2004年)

 これらの著書は、フランス法の全体をバランスよくカバーしている点、なおかつ記述内容が非常に詳細である点で比類のない著作です。現代フランス法の基本構造を理解しようとするならば、この本を繙けば、そのどこかに求めている答えを、少なくともその端緒を見つけ出すことができるでしょう。通読して全体構造を把握するよりも、事典的な使い方に適しているかもしれません。
 一方で、弱点もあります。ひとつは、上巻が現在入手困難であること。もう一つは、これは弱点とは言い切れませんが、上下巻とも改訂されていないため、その後の法状況の変化が反映されていないことです。最新の状況を知りたいのであれば、個別の論文などで情報を補う必要があります。

 フランス法の歴史に関する文献としては、若干古くなりますが、つぎの文献を挙げておきましょう。

・野田良之『フランス法概論上巻(1)(2)』(有斐閣、1954年、1955年)

 すでに紹介した文献のなかでも、フランス法の歴史について触れられています。ですが、この著作は、「現行フランス私法—ひいてフランス文化—を成立せしめている基本的な諸要素を見出し、これが歴史的發展のなかでどのように動いて來たか、そしてこの動きを通じてフランス法文化がどのような過程をとつて現在のような形に生成して來たかを明かに」(同書8頁)するという課題を自ら設定したうえで、それを非常に高い水準で実践している点で傑出しています。古い文献なので少し読みにくく感じるかも知れませんが、是非チャレンジして欲しいですね。
 フランス法史に関する重要文献としては、もうひとつ、

・オリヴィエ・マルタン著・塙浩訳『フランス法制史概説』(創文社、1986年)

があります。今のあなたには少し早いかもしれないですが、研究が進めば、いずれ手にすることになるでしょう。
 これらの文献の叙述は、大革命前夜の状況を描写するところで終わっています。近代法の展開についてはまとまった文献がありませんから、いくつかの日本語論文を併せ読まなければなりません。フランス語であれば本格的な文献がありますから、もう少し研究が進んだら教えてあげましょう。

学生—— 詳しく説明していただいて、有り難うございました。実は、いま先生にご紹介いただいた文献のいくつかは、図書館で借りたことがあります。でも、なかなか読み進めることができませんでした。
 フランス法では、日本法では使われない特殊な法律用語や表現が使われることがありますよね。

教授—— そうですね。

学生—— そこで引っかかってしまうんです。何かよい方法はないでしょうか?

教授—— 残念ですが、よい方法はありません。コツコツ勉強を進めていくほかありません。ですが、頑張ってフランス語文献を直接読めるようになれば、日本語文献の理解も深まるようになりますよ。

学生—— まだまだそのレベルに到達してないんです。

教授—— そうですか。う〜ん、それではもう少し詳しく説明してあげますから、明日の昼休みに個人研究室まで来て下さい。

学生—— 有り難うございます!

教授—— それでは、また明日。

(続く)

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2016/04/17

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